伊豆の踊子について読書感想文を記す。
爽やかな物語だと思う。直前に太宰とか安部公房とかカミュの本を読んでいたので、殊更そう感じた。
あらすじ
孤独や憂鬱とか、19歳の自我が芽生えた際の悩みを解消するために青年は旅に出る。
旅の中で芸者一行と出会う。卑しい身分の踊り子の少女に淡い恋心を抱きながら、彼女との関わりの中で、青年の心が開けていく様子が描かれている。
感想
川端康成らしい淡く繊細な表現が特徴的な文章だと思った。
雨脚が杉の密林を白く染めながら、凄まじい速さで麓から私を追ってきた。
端的な表現でありながら情景がありありと思い浮かぶ。
青年は、14歳の踊り子に淡い恋心を抱く。彼が彼女に本を読んでやるとき、いそいそと近づいてきて笑ってこちらを見つめる彼女に青年は惹かれていた。
それから彼女は花のように笑うのであった。花のように笑うという言葉が彼女には本当だった。
当時の卑しい身分だった踊り子とは、いわゆるエリートの学生である青年と立場は大きく違う。
が、青年は彼女らが旅芸人という種類の人間であることを気に留めない。
男性にとって、恋をするうえで、相手の身分とかステータスとかそういう属性たるものは、惹かれるうえで毫も障壁になることはなく、いじらしさや笑顔が彼の琴線にふれると、流れるように恋が始まるんだなと改めて感じた。
青年は、踊り子というペルソナを自然に外して少女の美それ自体に恋をした。
何もかもが一つに溶け合って感じられた。
青年の成長についても目を向けてみたい。
自分の性格が孤児根性で歪んでいると反省を重ね、息苦しい憂鬱を変えるために彼は旅に出た。
旅の後には、婆さんを上の駅に連れて行くこと、横の少年に素直に話すこと、少年の親切心を受け取ること、そういう全てが自然とそうあるべきことだと感じられた。
これまで、斜に構えるような性格だったが、外の世界に対して心が開け、それら一つ一つのものが美しくて爽やかで淡いように感じられるようになった。
頭が澄んだ水になってしまっていて、それがぽろぽろ零れ、その後には何も残らないような甘い快さだった。
こういう気持ちは、誰もがよく感じたことがあると思う。青年と同様に何処かに旅に出かけたあと、好きな人と一緒にいたあと、朝の爽やかな空気に包まれて一日が始まったあと。
踊り子の別れに傷心しながらも、そういう淡く切ないものも含めたことの成り行きを趣深いと感じられるようになった青年の心情の変化を叙情的に、それでいて軽く表現しているところがいいなと感じた。
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